はじまりの詩 5

バノーラ村の集落から少し離れた大きな家の前で、三人は歩みを止めた。

「ここがジェネシスの実家。両親はこの辺りの地主だ」

ツォンが淡々と告げると、ザックスは何かを思い出すかのようにバカリンゴの木に視線を向ける。

「旧知なんてものではない。ふたりは幼なじみで、親友だった」
「脱走したジェネシスが親友のアンジールを仲間にした。そういうこと?」
「セフィロスはそう考えているようだ」

不機嫌そうに訊ねたザックスを軽くあしらうように、ツォンは答えた。
レンガはツォンの言葉を引き継ぐように、悲しげに呟く。

「何だかんだ言ってても、二人は仲、すごくよかったから……。可能性としてはなくもない、かな」

見るからに落ち込んでいるレンガを、今度はザックスが心配そうに見つめる。
ふと、ツォンが屋敷の庭に植わっている樹木の根元へと視線を向けた。

「おや?……墓石だな。まだ新しい。ザックス、アンジールの家を確認してくれ。レンガはジェネシスの家を。俺は墓を調べる」
「げっ、タークスってそんなこともするのか?」
「もともと、汚れ仕事が多い部署だしね」

墓を調べる、すなわち墓荒しをするというツォンに、ザックスは顔をひきつらせる。
それを苦笑い気味に、レンガがフォローという名の追い打ちをかけた。

「誰かがやらなくてはならないしな」
「……大変だな」
「気にするな。おかげでお前より給料はいい」
「まじかよ!」
「ちょっとツォン!それぼくも初耳なんだけど!」
「クラス1stほどではないがな」
「なんだ、ならいいや」
「いいのかよ!」

鮮やかなザックスのツッコミに、レンガはひとしきり笑ってからザックスを村へと送り出した。
墓を掘っているツォンを背に、ジェネシスの家へと足を踏み入れる。

 

「ご、ごめんくださーい?」

誰もいないのは分かりきっているのに、ついつい声に出してしまったのは常識人の性である。
ちょっとだけ羞恥心に苛まれつつ、家の中を物色しはじめた。
リビングやキッチンには資料のようなものは何もなさそうだ。
とある部屋に入り、本棚に置かれた本を確認していると、机の上に雑誌とトロフィーが置いてあった。
妙に気になって、レンガはその雑誌を手に取る。

「資料……じゃないな。なんだろう?」

薄いその雑誌をぱらり、と適当にめくると、小さい頃のジェネシスらしき少年が映っているページを見つけた。

「これ……もしかしてジェネシス?」

本の内容は、バカリンゴのジュースを幼いジェネシスが開発し、農産物コンテストで最優秀賞を取ったという記事だった。
気づくと、レンガは雑誌を夢中で読み進めていた。

「『ジェネシス少年のコメント。とても嬉しいです。でもジュースだけではなく、そのまま食べてもおいしいんです』……て、ジェネシスしおらしすぎ……」

今の横暴なジェネシスからは想像もできないしおらしいコメントに、レンガはついニヤニヤしてしまう。
すっかり調査を忘れているレンガを正気に引き戻すかのように、無機質な着信音が鳴り響き、レンガはケータイを取った。

「もしもし?」
『村はずれの工場にジェネシス・コピーが入っていった』
「あのねぇ、一応でも相手確認しようよ……。……で、ジェネシスたちはその工場を拠点にしてるってこと?」
『おそらく。俺は工場そばの崖にいる。上から侵入するので、すぐに崖の上に来てくれ。場所はすぐわかる』
「了解っ」

明るく答えて通信を切ると、レンガは本をぱたりと閉じた。

 

崖の上には、工場の様子をみているツォンと、ツォンと同じように工場を見つめるザックスがいた。
レンガが来るのを確認すると同時に、ツォンは口を開く。

「あの墓はジェネシスの両親のものだった」
「まさか、自分の親を!?」

ザックスはショックを受けて、半分疑惑の目でツォンに視線を向ける。

「道理は通じない相手のようだな。ジェネシスの家はどうだった?」
「盗まれた技術、兵器に関する手がかりは何もなかったよ」

調べずに雑誌を読んでいたとはいえない。
少しだけ眉をしかめて見つめてくるツォンに内心冷や汗をかきながら、レンガは答えた。

「……アンジールは?」
「家にはいなかった。でも、頼む!時間をくれ。もしアンジールがいたら、俺が説得する。アンジールが考え直せば、ジェネシスも神羅に戻ってくるかも」

悔しげに言ったザックスは、懇願するようにツォンに訴えた。
その瞳は、絶対にアンジールを連れ戻してみせるという覚悟に溢れている。
その姿を見て、ツォンはふっと笑う。

「セフィロスがお前を指名した理由がわかった」
「俺?」
「兄さんがザックスを指名したの?」

不思議そうに言ったザックスとレンガに、ツォンはうなずく。

「ジェネシスとアンジール、セフィロスの友人はこのふたりだけだった。もっとも戦いたくない相手だ。それが命令拒否の理由だろう」
「だったらぼくだって拒否してもよかったじゃん……」

自身もまた、ふたりの友人であるレンガは深いため息をついた。
ザックスはそれを見て、ぽんぽんとレンガの背中を慰めるように軽く叩く。

「俺だって、アンジールの友達だ」
「お前なら、ふたりを取り戻せると期待したんだろうな。……時間がない、急ごう」

ツォンに続いて、レンガとザックスは立ち上がる。
ザックスが先に飛び込んでガラスを突き破り、それにツォンが続くのを見つめて、レンガは呟いた。

「……ぼく、そんなに信頼できなかったのかな……」

セフィロスから信頼されていないのかもしれないという哀しみ。
それを胸の奥底にしまったまま、レンガは工場へと飛び降りた。

 

あとがき
さーて、ほぼ二ヶ月くらいぶりの更新ですよ奥さん!←誰
いや、もっと……かな?
なかなかリアルが忙しくてですね。下書きもなかなか進まないし打ち込みも進まないしで
うわぁぁぁぁあぁってなってたんですよ。
そうしてる間に相方が独立しちまいましたよ。更新さらに遅くn(殴
次回はグレちゃったジェネ君と青春の複雑な想いのようなものを抱えたアンジール君との対面です。(なんだそれ
原作沿いだとザックスが主人公なんでレンガの出番ないですね。
ザックスがヒデオモデオに行っている間にレンガはミディールに行く予定なので、思う存分レンガを動かせます。楽しみだ。

ではここまで読んでくださり、ありがとうございました。

by氷紅