はじまりの詩 6

「侵入成功っと」

ひらり、と身軽く屋根から飛び降り、レンガはぐっとザックスに向かって親指を立てた。

「じゃあザックス。出てくる雑魚はよろしくね」
「あぁ!……ってえ、ちょっ、待てよ!」

反射で返事をしたものの、驚いて引きとめようとしたザックスを軽くスルーして、
レンガは二階の踊り場からさらに飛び降りる。

二階でザックスが剣を交える甲高い音を聞きながら、レンガは工場内を見回した。
工場の中は閑散としており、ジェネシス・コピーの姿もない。
あちこちに置かれているコンテナの中を確認していると、階段からザックスがぱたぱたと駆け降りてきた。
その後にツォンが続く。

「レンガ!俺だけ置いていって雑魚の相手させるなんて酷くねぇか!?」
「あははーごめん。あんな雑魚だったらザックスに任せていっかなー、って」

出会い頭にザックスに怒鳴られ、たはは、と笑いながら、レンガは頭を掻く。
気まずげな笑顔はすぐに真面目な表情に取って代わり、工場の中を一瞥する。

「コンテナとかには何もなさそうだよ。部屋とかを調べたほうが良さそう」
「そうか。ではそちらを調べてみるか」

ツォンは腕を組み、軽く頷くと歩き出す。
ザックスとレンガも、ツォンに続いた。

 

一階の隅にひっそりとあった部屋は、ごちゃごちゃと紙や物が散乱していた。
書類らしき紙にプリントされている内容は、コピー技術とは何の関係もない、農業関係のものだ。
物が散乱し、足の踏み場もない部屋を越えて、レンガは部屋の端に置かれたパソコンの電源を入れる。
立ち上がった画面は、予想通りロックがかけられていた。

”パスワードを入力してください”

「……パスワードなんて知らないし、なぁ」

その時、レンガの右目にチリッ、と痛みが走った。
一瞬火が舐めたような、熱い痛み。

「……つっ」

眼帯で隠し、見えないはずの右目に何かが映る。
ひどいノイズに覆われた映像。
その中に見えた、文字列。
奇妙な確信にとらわれ、レンガは一文字ずつ、丁寧にそれをパソコンに打ち込んでいく。

「……I」

I・M・I・T・A・T・I・O・N

――Imitation。
まがいもの。

「……嫌なパス」

ピロン、と軽やかな音がして、ロック画面が解除される。
ただ青い、味気ないデスクトップに並んだ、意味ありげなフォルダの列。

「ねぇ、ツォン。盗まれた技術って、これじゃない?」
「……何?」

ツォンががさがさと紙の山を越えてレンガの側へやってくる。
レンガが指さした画面を見て、ツォンは瞳を瞬かせた。

「よく分かったな。ロックもかかっていただろうに」
「……なんか、解除できちゃった」
「ずいぶんずさんなセキュリティだな」

パソコンのキーボードを、ツォンがカタカタと打ち始める。

「二階へ行け。ジェネシスがいるかもしれない」
「わかった」

置いてけぼりにされていたザックスが、レンガよりも先に答える。
紙の山を越えて、レンガはザックスとともに二階へ駆け上がっていった。

   →

 

あとがき
……キレのいいところで切ってみたら見事にジェネシスもアンジールも出なかった件について。
久々の更新なのにこれどうなの!?
あ、いえ、創作意欲だけはもりもりあって下書きは順調に進んではいるんです。
ただ、ルーズリーフに下書き書く→打ち込む→加筆修正する→加筆部を修正して加筆する→加筆部をry
の繰り返しなので、いつ終わるのか……。
ここまで読んで下さりありがとうございました。

20101224 そういえばクリスマスイブだった。
氷紅

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