-五年後-
「だぁから、あの時ぼくが援護しなかったのは悪かったよ?でもウータイ兵ごと吹き飛ばすことないよね!?」
「レンガがあそこにいたのが悪い」
「うわ、すっごい理不尽!」
神羅ビル49階、ソルジャーフロア。
その廊下を、二人のソルジャー・クラス1stが歩いていた。
片方は赤いコートを羽織ったソルジャー、ジェネシス。
もう片方は極端に背の小さい銀色の髪のソルジャー、レンガ。
二人はウータイと神羅カンパニーの間で勃発している戦いに駆り出され、たった今その任務から戻ってきたところだった。
「アレ、ぼくじゃなかったら死んでたっての。一般兵や2ndや3rdもいるんだから周りを見ろ周りを」
はぁ、とあからさまにレンガは溜め息をつき、隣で歩くジェネシスを恨めしそうに見上げた。
ジェネシスは前を向いたまま、無言。そして、唐突に口を開いた。
「……時々、アンジールみたいな事を言うな」
「アンジールに色々影響されてますー。悪かったね」
五年前から一緒に暮らすようになったセフィロスと、セフィロスを通して友人となったジェネシス。
二人は今までよく普通の生活送れたな、と言いたくなるくらいに家事が出来なかった。
その二人を今まで一人で支えてきた、これまたセフィロスを通して友人になったアンジールを少しでも助けてあげるため、レンガは家事やらなんやらをアンジールに片っ端から習っていた。
お陰で今や料理の腕と説教の腕はピカイチだ。アンジール様々である。
「そもそも、ソルジャーって何でみんなこんなに甲斐性ないの?兄さんもそうだし、ジェネシスもそうだし、話聞いてるとアンジールが可愛がってるザックスとかいうのもそうっぽいし……」
兄さんというのはセフィロスの事である。ある日セフィロスが宝条の所に「あの子はどこからさらってきた」と問いつめたところ、「お前の弟だ」という爆弾発言が返ってきた。
しばらくショックを受けて硬直したあと、素直にセフィロスがそれを告げると、嬉々としてレンガはセフィロスのことを兄さんと呼ぶようになった。
それ以来ずっと兄さんである。
まぁそんなことは置いといて、このまま説教をぐだぐだと続けそうなレンガをさえぎり、ジェネシスはぽつりと告げた。
「……面倒だから、報告書の提出は任せたぞ」
「へっ?はぁ!?え、ちょ、待てぇぇぇ!!」
驚いて一瞬歩みを止めたレンガの隙を逃さず、ジェネシスはさっさと走り去ってしまった。
あまりの理不尽さに、レンガは怒りでふるふると震える。
「あんのお坊ちゃまが……!!一週間はメシ作ってやんないぞ……!うん、そうしよう」
ジェネシスはセフィロスと揃ってとことん料理が出来ない。それこそ火を使おうものなら消し炭しか作れない。
まぁセフィロスは火を使わなくても消し炭しか作れないのだが。(どうやって消し炭にしているかは謎である)
そんな事情があり、よく昼食などはアンジールやレンガの部屋に転がり込んで食べたりしているのだ。
レンガの所で食べられなくても、アンジールがいるうえビル内には社員食堂もあるので食いっぱぐれることは到底皆無だろうが、
ジェネシスへのささやかな嫌がらせとしてレンガは心の中で強く決意し、ラザードに報告書を提出するためにエレベーターに向かった。
「はぁ……。なんであんなに横暴に育ったのか……。環境か、環境がいけなかったのか。地主のお坊ちゃんなんてろくな人にならなそうだもんな…!!」
キッチンに立ち、タマネギを刻みながらレンガは小さく、本日二回目のため息をついた。
ジェネシスが自分勝手で横暴で理不尽(レンガ談)なのはそういう理由があるからだと、レンガはもう信じきっていた。
もう既にいい大人なのに、ここまでわがままなうえ幼馴染みはともかく10歳児に食事をまかなってもらっているのはいかがなものだろうか。
ジェネシスへの塵のように積もり積もった怒りを少しずつ向けていたからか、いつの間にかみじん切りを超えて粉々になっているタマネギにレンガは目を落とした。
「……刻みすぎた……」
もはやちょっとどろっとした粉末くらいかもしれない。
まぁいいやとレンガはすっぱり割り切って、まな板からタマネギを別の容器にうつした後、にんじんにとりかかった。
と、そこで部屋のインターホンが鳴る。
「はーい?」
『俺だ』
「あ、兄さんか。勝手に入っていいよー」
ガチャリ、と静かにドアを開けて入ってきたのは神羅の英雄、セフィロス。
そしてレンガの兄(宝条談)である。
彼もまた、レンガ作の昼食を頂きにやってきたのだった。
「今日はチャーハンだけどいい?」
「……タマネギが入っていなければな」
「……分かった(入れるけど)」
既にタマネギは刻み終えていた。
ほとんど粉末状だし、気づかないだろうと思ってレンガは気にしなかった。
これでセフィロスの極度の偏食が治ればなおいい。
セフィロスの偏食は目に余るものがあった。(例はあげていくとキリがないので言わないが)
周りの人間はセフィロスを畏れて何も言わないので、弟のぼくがしっかりしなきゃ!とレンガは息巻いていた。
さながら好き嫌いの多い子供を持つ母親である。
ほぼ粉末状のタマネギをフライパンに放り込み、これまたみじん切りのにんじんを入れていためる。
ちなみににんじんは粉末状にはなっていない。
あっという間に野菜に火が通り、レンガがライスを入れて隠し味のマヨネーズをぶち込み、いためているとまたインターホンが鳴った。
「兄さん、出てくれない?今火、使ってて手が離せないから」
「分かった」
セフィロスが腰を上げ部屋のドアを開けると、レンガを放置したときのまま、つまり武装したままのジェネシスが立っていた。
「……どうした?」
「ちょっと、な……。入れてくれないか?」
昼食をごちそうになりに来たにしては様子がおかしい。セフィロスがそんな意味を込めて聞いた問いかけもごまかし、ジェネシスはセフィロスの開けたドアから部屋へと入った。
ちょうどレンガはチャーハンを作り終えたらしく、ほかほかと湯気を立てる皿を二つ持ってくるところだった。
「あれ、ジェネシス?……ジェネシスの分、作ってないからね」
レンガが少し嫌味を込めて言うと、ジェネシスは首を振った。
昼食を食べに来たのでないのなら、何をしに来た?レンガは首を傾げてジェネシスを見つめた。
「俺はアンジールの所で食べてくる。それに、もうすぐ次の任務だ」
「もう?さっき帰ってきたばっかりなのに…。今度はどこ?」
いただきます、と一言添えて、レンガはスプーンを手に取って訊ねた。
さっきの怒りはどこへやら、心配そうに訊ねたレンガに、ジェネシスは至極あっさりと答えた。
「ウータイだ。極秘任務らしいから、同じソルジャーでも内容は話せない」
「そっか。うん、頑張って」
「あぁ」
これまたあっさりと答えたレンガに、ジェネシスは複雑そうな表情を浮かべていた。
それを見逃さなかったセフィロスが、眉をしかめてジェネシスに訊ねた。
「……何かあるのか?少し様子がおかしいぞ」
「いや、特に何もない。……悪かったな、邪魔をして」
そう言い残し、ジェネシスは部屋から去っていってしまった。
そういえば、普段任務があるなんて言わないな…と思ったレンガは、既にジェネシスの姿はないドアを見つめた。
「ジェネシス、なんか変だったね……」
「……そうだな」
二人でジェネシスが去った後のドアをしばらく見つめ、中断していた昼食を食べ始めた。
「レンガ……タマネギを抜けと言っただろう……」
「あれ、気づいた?でも偏食は健康の敵なんだから残さず食べてね。残したら問答無用でブリザガだから」
「……」
レンガの本気の魔法はソルジャーでも無事では済まない。
それを五年間でしっかり学んだセフィロスは、仕方なくほとんど見えないタマネギを口に運んだ。
―――ジェネシスが大勢のソルジャー2nd、3rdを連れて失踪したのは、その一月後の事だった。
後書き
結構長くなりました!
ルーズリーフに一度下書きをして、それから加筆修正をしつつ打ち込む形を取ってるので長さがよくわからないです…。
次からやっとCC本編の一章に入ります!
実は二話ももう下書きは終わってるんですけどね…。
色々つじつま合わせ(←)を確認したりしたいので三話か四話くらいの下書きが完成したら二話をUPするつもりです。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
by氷紅