プロローグ

静かにうねる蒼緑の海。
その流れに押し流され、漂いながら<彼>はゆっくりと目を覚ました。
視界に広がる蒼緑の世界に満ちるたくさんの「想い」と「記憶」
その中に自らの記憶がないことに気づかずに、<彼>は再び目を閉じた。

はじまりの詩~プロローグ~

「科学部門からの依頼だ。最近入った新しいサンプルの教育・管理をして欲しいとの事だ」

そう、神羅カンパニー、ソルジャー部門総括のラザードは目の前の男に告げた。
形の良い眉をしかめ、依頼を告げられた青年は不機嫌そうに立っていた。
ソルジャー・クラス1st、セフィロス。
長い銀髪に整った顔立ち、ソルジャーを示す蒼緑の瞳を持つ彼は、神羅の英雄という異名を持っていた。

「……何故、俺なんだ」

不機嫌になったのを隠さずにセフィロスが問うと、ラザードが苦笑いを浮かべて答えた。

「何でも、君に関連性の深いサンプルらしい。是非君にと、宝条のお達しだ」

宝条、という一番嫌いな人物の名前を聞いて、セフィロスは眉間の皺をさらに深くした。
しかし、1st、という任務を拒否しても良いという黙認がある立場のセフィロスでも、科学部門統括という人物直々の依頼を断る訳にはいかない。
セフィロスは、渋々その任務を受けた。

 

灰色のコンクリートで固められたビルの中で、妙に目立つ白い扉の前にセフィロスは立っていた。
宝条の実験サンプルとしては珍しく、扉に鍵が掛かっていない。
ノックもせずに扉を開け、部屋に入ると、銀色の髪を伸ばし放題にした少年が座っていた。
突然の来訪者に、少年はぽかんとセフィロスを見つめている。……ような気がする。
何せその表情は長すぎる前髪に隠されて見えなかったからだ。

「……だぁ、れ?」

高いボーイソプラノの声が響いた。首を少しだけ傾げて、その少年は不思議そうに突然の来訪者を見つめていた。

「セフィロスだ」

セフィロスは答えになっているのかなっていないのか良く分からない答えを返した。
その名を聞き、少年は少しだけ考え込む仕草を見せた。両手につけられた鎖がガチャリと音を立てる。
数秒考え込んでいたかと思うと、少年は思い当たったかのように手をぽんとついた。

「あぁ……そっか、きょう、だっけ?ぼくのきょーいく、とか、かんり、とかするひとがかわるのって」
「あぁ、そうだ。俺が宝条に依頼されて来た」
「ふぅん」

自分を管理する人間だと分かったからか、少年はセフィロスに関心を失い、また床を見つめた。

「お前、名は?」

これからも関わらなければならないのに名を知らないのは不便だと考え、セフィロスは少年に尋ねた。
少年が顔を上げる。前髪の間から、大きな鮮血を連想させる紅い瞳が一瞬こちらを捕らえた。が、すぐに前髪の下に隠れてしまう。

「ぼくの……なまえ?それって、ひつようなもの?」

名前を聞くのが不思議なことのように、少年はまた首を傾げた。
その様子に、さすがにセフィロスも驚きを隠せなかった。

「……名を知らないと不便だろう?」
「ううん。はかせたちはぼくのことじっけんさんぷる、としかよばないし、ぼくもはかせたちのことははかせとしかよばないから」
「……」

困った。つまり彼には名前が無いということだ。
セフィロスは少年をどう呼ぶのがしっくりくるか考えた。が、セフィロスにネーミングセンスなんてものがあるわけがなかった。
いつだったか、ジェネシスの拾ってきた仔猫に迷わず「毛玉」と名付けようとしたくらいだ。
少年の名前をどうしようか、セフィロスが考え始めた時、少年があっと声をあげた。

「どうした?」
「えーっと、そういえば、まえにきたおんなのひとが、ぼくのこと、れんが、って呼んでた」
「……レンガ、か。お前はそれでいいのか?」
「ぼくは、べつにどうよばれてもいいよ」
「……なら、レンガと呼ばせてもらう」
「うん。じゃあ、ぼくもセフィロスってよぶね」

なんだか照れくさそうに笑ったレンガを見て、セフィロスは無意識のうちに微笑をこぼした。

 

……それが、僕等の最初の出会いだった。

 

後書き
プロローグなげえええええ!!
すいません次回から自重します(次回からかよ
てか、コレもう第一話でよくない?でも次から五年経つのでプロローグじゃないといけないんですよね。
それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。

by氷紅