きもだめし、はじめました。

「なぁ、肝試ししないか?」

このひとことではじまった、ひとつのものがたり。

きもだめし、はじめました。

夏の真っ盛り。
神羅ビルのリフレッシュルームで、五人のソルジャーはぐったりとソファに身を任せていた。

「暑いな……」
「ねぇ、クーラーきいてるの?」
「効いてる……はずだ」

今年は猛暑で、神羅ビル内に設置されているクーラーもあまり効き目がなく、
一番効いているはずのリフレッシュルームでさえ、温度計は無情にも36℃を指していた。

「……っだぁぁぁ!!暑い!暑くて耐えられねぇ!アンジールなんとか出来ないのか!?」
「俺に振るな……ザックス、お前俺に任せればなんでもできると思ってるんじゃないのか?」
「仔犬なら有り得るな」
「仔犬言うな!」

ザックスがジェネシスに吠えかかる。
ザックスの動きがおおげさでさらに暑苦しく、レンガとセフィロスは深いため息をついた。

「ザックスがいちばん暑苦しいよ……」
「まったく……喚いても暑さは変わらないだろう」

ぬるい麦茶をごくごくと飲み干し、レンガは一息つく。
うらやましげにジェネシスがお茶を見つめていたので、レンガは大人しくお茶をジェネシスに渡した。
麦茶を飲んでいるジェネシスを横目に見て、レンガはザックスの方を向く。

「そういうけどさ、ザックスはなにかあるの?すずしくなる方法」
「えー?うーん……そうだなぁ」

顎に手を当てて、ザックスは少しの間考える。
その間にジェネシスから麦茶を返してもらい、再びレンガはお茶を口に含んだ。

「そうだ!」

突然叫んだザックスに驚き、レンガは飲んでいたお茶を気管に流しこんでむせる。
慌ててセフィロスが背中をさすってやりながら、ザックスを睨みつけた。
セフィロスの睨みを意にも介さず、ザックスは満面の笑みを浮かべる。

「なぁ、きもだめししないか?ちょうどいいことに神羅って、結構マジな噂が多いしさ!」
「きもだめし、か……涼しくなるにはいいかもしれないな」
「き、きもだめし……か?」

なぜかどもるジェネシス。それをすかさずザックスが突っ込む。
普段からかわれている仕返しだ。

「ん?なんだぁ、ジェネシスは怖いのか?」
「こ、怖くなんてないぞ!ただレンガが心配なだけだ!」
「ぼく?ぼく平気だよ。ふだんからみてるから」
「……は?」

レンガの爆弾発言に、四人はぴたりと固まる。
硬直から一番早く我を取り戻したアンジールが、レンガを問いただす。

「レンガ……普段から見てるとはどういうことだ?」
「え?言葉どおりの意味だよ?ほら、今は兄さんのうしろに」
「……ッ!?」

セフィロスが真っ青な顔で飛び退る。こころなしか冷や汗もかいているようだ。
レンガがぽてっと首を傾げる。

「……なまくび、が」
「や、やめろレンガ!それ以上言うな!」

ジェネシスも真っ青な顔でレンガの言葉を止めた。
レンガは不思議そうに青い顔のジェネシスとセフィロスを見上げる。

「いっちゃだめだった?」
「あぁ……言わない方がよかったな……」

ザックスも青い顔でレンガを見つめている。
ひとりだけ状況を理解していないレンガは、もう一度首を傾げて、不思議そうに四人を見ていた。

 

結局、きもだめしは宝条の協力で、昔封鎖された実験場を貸してもらうこととなった。
現在もかつて行われていた実験のサンプルがまだ残っていたり、実験器具が残されたままだったりで、
きもだめしにはぴったりの場所となっていた。

「ククク……下手にサンプルに触ったりすると酷い目に遭うからな……」

クァックァックァッ、と気味の悪い笑い声をあげた宝条を、五人は嫌悪の目で見た。
変態の宝条は放っておいて、五人は紹介された実験場に向かう。

生温かい空気が、顔をかすめる。
実験場の入り口から吹いてくる風だった。
実験場は地下に作られていて、風が吹いてくる時点で既に何かがおかしい。

「ホントに……行くのか?」
「ここまで来たらいかなきゃだろー」

実験場から感じる危険な空気は、どうやらザックスには感じ取れないようだ。能天気め。
レンガはカタカタと震えながら、セフィロスのコートの裾を握っている。

「ここ……いっぱいいるよ……おいでっていってる……」
「だ、大丈夫なのか、行っても……?」
「わかんない……いるのに、何もかんじない……」
「なんだよー、あんたら怖がりだなー!じゃあ俺が先に行ってやるよ!」

レンガの怯えようから、ここは本当に危険なのだろうと容易に想像出来る。
それでもザックスが駄々をこね、先人を切って行ってしまったので四人もザックスを追って実験場へと足を踏み入れた。

生温かい風が吹きつけたのは入り口だけで、中の空気はひんやりとしていた。
まるで、入り口の風は来るな、と警告していたかのように。

「ずいぶん涼しいな……」
「お、おい……やめておかないか……?レンガも怯えているし……」
「さっきからジェネシス、レンガを引き合いにだしてばっかだな」
「レンガはまだ7歳だぞ!?心配してやるのが大人だろう!?」
「……ジェネシス、お前真っ青だぞ」

レンガは相変わらず落ち着かない様子で周りをおどおどと見回している。
アンジールはしゃがみこみ、レンガの肩に手を置いた。

「何か見えるのか?」
「うん……え、なぁに?……うん……うん……」

虚空を見つめて、レンガは誰かと話している。
内心びくびくしながら、セフィロスとジェネシスは誰かと話すレンガを見つめていた。
ザックスはというと、目を輝かせてレンガを見ている。どう見ても尊敬の目だ。
誰かと話し終えたのか、レンガは皆の方を向いた。

「えっとね……いい幽霊さんが教えてくれたよ。この先は……ものすごく危険なモノがいるんだって。
生きてる人も、死んじゃった人も、かまわずに食べちゃうんだって……」

 

続きます。