君たちといた夏

季節は真夏。
さんさんと射す日の光は、容赦なく大地を照らしている。
温められた地面から立ち上がる熱気が、コンクリートで固められたミッドガルの気温を上げていた。

「あついね~……」
「アンジール、この展開どこかで見たような気がするんだが」
「それはデジャヴだジェネシス。決して夏ネタできもだめしと被ったからじゃない」
「おい、一番言っちゃいけないことを言っているぞ」

リフレッシュルームのソファはやわらかく体が沈むので、暑苦しさが少し増える。
ソファに身を任せていたレンガは、ソファからがばりと身を起こした。

「ねぇねぇ、今晩、海で花火しない?」
「花火?ロケット花火とかか?」
「なぜまずそういう危険な花火を連想するんだ!」

アンジールがべしりとジェネシスの頭を叩く。

「何故だ、花火と言ったらロケット花火だろう?」
「他にもあるだろう!線香花火だとか……」
「……さいしょに手持ち花火、とか思わないの?」

 

花火の調達はアンジールに任された。(セフィロスやジェネシスに頼むとろくなことにならない)
アンジールが花火を買い込んで来る間、三人は海辺でふらふらとしていることとなった。
夜の海辺は、魔晄を吸い上げて土地が疲弊しているミッドガルに比べて涼しく、居心地が良い。

「涼しいねー」
「真夏なのにな」
「涼しいならいいじゃないか」

月の光がやわらかく海で反射し、海面が銀色の光できらめいている。
これをずっと眺めているのもいいが、アンジールが花火の入ったビニール袋を持ってきたので、三人は振り返った。

「アーンジールー!こっちこっちー!遅いよー」
「すまない、いろんな種類を揃えていたら遅くなってな」
「そういう所は律儀だな、アンジール」
「アンジールは何に対しても律儀だろう」

火のついたろうそくを立て、レンガはさっそく手持ち花火に火をつける。
火が花火の中の火薬に到達し、色鮮やかな火花が散る。

「きれいだね」
「そうだな……」
「アンジール、それ地味じゃないか?」
「線香花火は花火の醍醐味だろう」

各々、好きな花火を持って浜辺にしゃがみこみ、ぱちぱちと爆ぜる花火を見つめる。
夜の海に花火の光が反射して、夏にしか見られない光景を作り出す。

「ずっとこうしてられたらいいね」
「そうだな」
「おいアンジール!俺のロケット花火がないぞ!」
「元々買ってきていない!そんな危険なものを使うな!」

夏の夜はゆっくりと更けていく。

―――

蒸し暑い夏の夜。
浜辺にたったひとり、レンガは立ち尽くしていた。
あれから背が伸び、変わった視線でも、海の光は変わらない。

「僕だけひとり、残っちゃった」

苦笑いを浮かべて、レンガは水平線を眺める。
目をつぶれば、あの時、一緒にした花火の光が見えるような気がした。
懐から手紙を入れたビンを出して、海面へ浮かべる。

「大丈夫。皆の分まで、僕は生きてみせるから」

流れてゆくボトルメールを見送って、レンガは浜辺から立ち去った。

 

君たちといたは、今はもう遠いの中

もう二度と、あの花火は見られない

 

あとがき
地元が花火大会なので、その記念(?)に。
時系列的にはCC前→本編後の設定です。な、なんか切ない感じになってしまった……。
誰が歌ってるか知らないんですが、あの有名な「夏祭り」のフレーズを参考にしました。
100802

 

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