この鍵はどこかに隠しておこう
ふと、目が覚めた。何故かはわからないが、意識が覚醒した。

「(真っ暗・・・きっと夜明けはまだだ。)」

カーテンの隙間から一筋の光。きっと今夜は月が綺麗なんだろう。青年は鈍痛に呷く腰をさすり、そっとベッドを抜け出した。

「(よく寝てる・・・)」

隣で眠っている男は、相も変わらず間抜けな寝顔を晒し続けている。
そんなものにすらも愛しさを感じ、苦笑してずり落ちていたタオルケットを掛け直してやった。

「ん、クラ・・・」

寝言らしき呟きと共にもぞ、と動く男。
起こしてしまったかと思い、少し身構える。
だが、ただの寝返りだったらしく、青年は肩の力を抜くと同時に息をついた。

「なんで、だろうな・・・」

なんでこんな事になってしまったのだろう・・・


この男と出会ったのは大学のゼミ、厳しいことで評判の教授に論文を提出しに行った時だったろうか。
田舎から出てきた自分にとって、こっちで初めて出来た友人だった。それから共に行動し、酒を飲み明かしたりするうちに、いつの間にか親友になっていた。

「俺、気持ち悪いな・・・」

親友であり、憧れでもある彼に親友以上の感情を持つのに、そんなに時間は掛からなかった。決して思ってはならないこと、

(自分だけを見て欲しい)

と。彼には伝えられない、望んではいけない・・・そう考え込もうとすればするほど、彼に対する感情は深く醜いものとなっていった。
昨夜、いつものように彼を誘って酒を飲んだ。自分はそんなに強いほうではないが、酒好きなこの男と飲めば、それなりにペースも早くなる。

「(酷いコトをしてしまった。)」

酔ったその勢いで体の関係を望み、求めてしまった。きっと彼も酔いが回り始めていたのだろう、自分の誘いに乗り、そして今に至るのだ。


「ごめん・・・ザックス・・・」

そう彼の耳元で囁き、窓際に寄り月を見上げる。その美しさに目を細め、暗い室内を振り返った。
散らばった空き缶と脱ぎ捨てられた衣服。彼が目を覚ましたら、第一に何を思うだろうか。

「(後悔していくつもの謝罪の言葉を並べるだろうな。でも、それより・・・)」

自分がたった今望んだこと、願ってはいけないということくらいわかっている。
でも、

「(夜の間、この月が見えなくなるまで、俺だけを見て、想って欲しいっ・・・)」


ふと、ローテーブルの上に小さな鍵を見つけた。
彼の相棒でもあるバイクの鍵。戸惑いながらも手を伸ばした。
どんなにこの時間が現実だとしても、朝が来ればそれは一夜の夢幻となる。
その事実がどうしようもなく悔しくて、朝など来なければいいのに・・・などと、しょうもないことばかりを考えてしまう。

「(お前さえいなければ、彼を此所に留められるの?)」

震える手の中の鍵に心の中で聞いてみた。
もちろん答えなどあるわけなくて、切ない想いだけが胸に取り残される。

(この鍵は・・・)
少しでも彼を留めたくて、自分だけを見て欲しくて・・・

子供のようなコトをする。
クラウドはもう1度月を見上げた。その時頬を伝った涙に気付かない振りをして、すっかり冷えた体をベッドに、ザックスの隣に潜り込ませた。

このはどこかに隠しておこう。

ただ貴方に愛してほしいだなんて、

 


後書き
ここに来て初のZCです。
初めてのちゃんとしたZCです。
本当はとてつもなく大好きなはずなんですが、設定がアレなために非常に書きづらかったです。ZC小説書き様は素晴らしいですね。感服です。

by雅楽

ブラウザバックでお戻り下さい。