ダンデライオン・1

俺の幼馴染みはどうもおかしな奴だ。
高3にもなって、「自分がわからない」とか、「答えがほしい」とか。
バッツが言うには「中2病」らしい。高3なのにな。
自分のコト、色んな意味で何もわかってなくて、そのクセ他人にはホクホクしてて、見ているこっちが
「お前は自分より他人を知りたがってるんじゃないのか?」と聞きたくなる。(実際に聞いてみたら、「そうでもあって、そうじゃないんだと思う…」と意味の分からない答えを返された)

とにかく、一言で言うと「目を離しちゃいけない気がする奴」だ。
多分この感情は、幼馴染みだから、などという理由ではない。
一人の人間として、アイツは放っておけなかった。

 

「スコール」

生徒達が活動を終えた放課後の校内。
まだ日の短い2月下旬、7時を過ぎれば空はもう真っ暗だ。

「クラウド、まだ残ってたのか。今日の生徒の下校時間は2時間41分前に過ぎてるぞ」

遠慮がちに開いた生徒会室のドア。
その向こうから現れたハニーブロンドを視界の端に入れ、いつものように素っ気ない返事を返した。

「委員会活動のある生徒の下校時間も1時間42分前に過ぎてるんだけど」

小さく笑って、後手にドアを閉め、執務机の横の大きなソファに体育座りで腰掛けた。(ジタンやバッツと違うタイプの苦手だ…コイツ)
苦手とわかっているのに放っておけない、しかもそれが幼馴染みだから、なんて理由じゃないと気付いているから苛々する。

「(なんで俺が…)」

盛大にため息を吐くと、クラウドは不安そうな顔を見せた。

「俺、なんか手伝えるコトあるか?…それとも邪魔だった?」
「そういう訳じゃない…。一緒に帰りたいから来たんだろう?もう少しで終わる」

少し声音を和らげて言えば、安心したように息をつく。

「(矛盾だな、苦手なのに望んで一緒にいるなんて…)」

自分に内心呆れながら、残り数枚の企画資料に目を通すコトにした。

 

「寒い…」

クラウドは長いマフラーで口元まで隠し、コートのポケットに両手を突っ込んで呟いた。

「当たり前だろ、2月の夜なんだから」

白い息を吐きながら、売店で買ったコーヒーをすする。

「スコールは大学、もう決まってるんだろ?」
「ああ、お前はこれからなんだろう。見て欲しいのは物理と数学か?」

あの顔は、図星をつかれた顔だ。
そのあとすぐに苦笑に変わる。

「何でもお見通しなんだな、アンタは」
「何年一緒にいると思ってるんだ」
「うん…」

そのままクラウドは黙ってしまった。
ちら、と横顔を盗み見れば、それは少し寂しそうな、儚い笑顔だった。

「どうした?」

声をかけると、クラウドは瞳を伏せ、静かに首を横に振った。

「今までずっと一緒だったから…、あと2週間でお別れなんて、なんだか信じられない」

クラウドの言葉に、俺もふと気付かされた。(…そうか、卒業まであと2週間しかないのか…)
ここ最近、自分が力を入れていたイベントのはずなのに、その主役が自分たち3年生であることをすっかり忘れていた。

「だが、どうせ家は隣同士だ。嫌でも顔を合わせるだろう?」

笑いながら言えば、相手も笑顔で「そうだな」と返してくれると思った。
だが俺に向けられたのは、真剣な表情だった。

「俺はスコールが嫌だなんてこと、ない」
「あ、あぁ…」

予想外の反応だったため、クラウドの両瞳に驚いている自分の顔が映った。

「スコール、明日も学校行くのか?出来れば午後から教えて欲しいんだ」

クラウドは何でもなかったかのように話題を変える。

「え?あ、あぁ、じゃあ午前中に仕事にケリをつける。午後はお前の家にいけばいいな?」
「うん、じゃあ明日、よろしく。おやすみ」

いつの間にか家の前まで来ていたらしい。
俺の答えを聞き、彼はにこりと笑って手を振り、隣の家の門を押していった。

「(やっぱり、たまに行動が読めない…)」

ずっと前からそうだ。
クラウドの言動は幼い頃から見ているため大体予想がつく。
だが桁外れに、今のように行動が読めないことがある。(だから苦手と感じるんだろうな…)
こういうことが起きる度に、自分の彼に対する苦手意識に一人で勝手に納得する。
残ったコーヒーを飲み干し、俺も自宅のドアの鍵を開けた。

 

翌朝、俺が家を出たときはまだクラウドの部屋のカーテンは閉まっていた。

「(まだ眠ってるのか…もう8時30分だというのに)」

そう思ったが、彼の睡眠欲と低血圧っぷりを考え納得した。
学校に着けば、校門前で花壇の世話をする環境委員長のフリオニールに会った。

「おはよう、スコール。生徒会長は大変だな、休日まで学校に来なきゃなんて。大丈夫か?眠そうだぞ?」
「お前は朝から元気が良いな。それに大変なのはお前も一緒だろう」

まだ冷たい朝の空気の中、ジャージ姿で腕まくりをして花の苗を植えるフリオニール。
彼はさわやかに笑った。

「卒業式には綺麗な花が咲いているとうれしいだろ?それに他の委員長や部長も、最後の引き継ぎで忙しそうだったしな」

その笑顔につられて、俺も自然に口元が緩んだ。

「事務局長はまだお休み中だけどな」
「そっか、スコールは家が隣だったな。きっとクラウドも疲れてるんだろ」

フリオニールは苦笑して片手を上げる。

「こんな早くに来たということは、仕事は午前中に終わらせるつもりなんだろ?クラウドによろしくな」
「あぁ」

軽く手を振って校舎に向かう。

「(帰りにプリンでも買っていってやるか…)」

無意識にそんなことを考えた自分に気付き、内心あきれる。
だが、世話を焼かれるクラウドと、世話を焼く自分の関係は幼い頃から心地良くて、そんな自分は嫌いじゃない。
そう思いながら、休日にもかかわらず騒がしい校内を生徒会室に向かって歩きだした。

 

「ティーダ、これは先週〆切のはずだったんだが…?」
「いやー、すっかり忘れてたっスー!や、でもほら、ちゃんとスコールに直接持ってきてぶっ!?」

せっかくさわやかに朝を迎えたはずだった…のだが。

「殴るコトないだろっ!非道い!ドメスティックバイオレンス!」

執務机の前でギャーギャー騒ぐバカのせいで台無しになってしまった。

「お前を体育委員長に推薦した奴の気が知れない…」

体育委員長であり、サッカー部部長だったティーダは、「スコール、声が出てるっス…」と涙目になった。

「もういいからさっさと活動に戻れ。この書類は代わりに副委員に提出してもらっている」

そんなことも気にせずに、露骨にティーダを追い出し、大きくため息をついた。
時刻は11時37分。
学校から家までを15分とすれば、そろそろ学校を出た方がよさそうだ。

「あれ?スコールってば帰っちゃうのかよ?」

コーヒーのカップを片づけようと腰を上げたその時、いきなりドアが開いた。

「ジタンか。あぁ、午後からクラウドに勉強教える約束してるんだ。何か用事か?」

入ってきたのは演劇部部長、ジタンだった。

「いや、暇だったから遊び来ただけ。そっかー、スコールはもう進学先決まってるんだもんなー。俺も教えて欲しいよ」
「お前はもう劇団…タンタラスだったか?からスカウトが来てるだろ。勉強は必要ないじゃないか」

食器洗い機にカップを伏せ、書類をカバンに丁寧に入れた。

「今時バカじゃやってけねーの。俺の成績、オール2だぜ?っと、あっ、ちょっスコール!俺を閉じこめるなっ!!」
「なんだ、気付いてしまったか」

肩をすくめて話し続ける彼を残し、生徒会室の鍵を閉めようとした。
だが寸でのところで気付かれてしまい苦笑する。
と、その時、ブレザーの内ポケットが震えた。

「あ!生徒会長!学校ん中は電源切んなきゃだろー!」

騒ぐジタンに顔を向けて人差し指を唇に当てる。
内緒だ、というサインを送りディスプレイに目を落とした。

「…クラウドか」

電話はクラウドからだった。何も考えずに通話ボタンを押して耳に当てる。

「どうした?」

その途端耳に飛び込んできたのは、救急車のサイレンと男の喘ぐ声だった。

『アンタ…この子の知り合いだなっ!?』

クラウドの声ではない。

「何者だ?クラウドはどうした?」

敬意を含んだ声で問い返す。
隣でジタンが異変に気付き、身を固くした。
電話の向こうの男はもはや叫び声だった。

『事故だ!いましがた、彼が事故に遭ったんだっ!』

 

あとがき
こんにちは、雅楽です。
ノリで考えました、スコクラ中編です。
結構前から書こうと思ってたんですけど、ちゃんと設定決めて書き始めたのは理科の授業中でしたね。
原曲はBUMP OF CHICKENさんで『ダンデライオン』です。
ご存じの方が多いと思いますが、死ネタですね。
このお話は第三者から見ればバッドエンドかもしれませんが、獅子当人にとってはハッピーエンドなんだと思います。
なので、中編でもスコにとっての幸せを表現できるように精一杯頑張ろうと思います。よろしくお願いします。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

by雅楽

10.5.22
相方の通報で誤字を修正しました。
還るってスコールお前…!!www…orz

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