『昔々、すんごく仲の良いカップルがいたんだけどさ、彼女の方が彼氏にメロメロで仕事しなくなっちゃったんだってさ。
そんでもって彼女のお父さんにすげえ怒られちゃって、2人の間にでっかい川作っちゃったんだよ。そしたら今度、彼女が悲しくて仕事しなくなっちゃって、これにはお父さんも困ったモンだ。
で、しょうがなくお父さんが一年に一回、橋をかけてあげて、2人を会えるようにしてくれたんだって。めでたしめでたし』
星の綺麗な夜。
旅人が少年少女に語っていた遠い東の国の話。少女は悲しそうな顔で「可哀想」と言った。
そんな少女を見て、少年が慌てて言う。
「でも、それは星の話なんでしょ?僕、本で読んだコトあるよ!」
後ろでその話を聞いていた俺には可哀想とは思えなかった。むしろうらやましい、とさえ思えた。
「何か用か?」
空を見上げたまま聞いた。
「お前がいなかったから探しに来た。隣、いいか?」
スコールは表情一つ変えず何も言わない俺の横に静かに座った。
「・・・今日は七夕という、異界の東国の祭事らしい」
しばらく2人で、黙って空を見ていたが、先に沈黙を破ったのはスコールだった。
「さっきバッツがオニオンナイトとティナに話していた」
わざと素っ気ない言葉を返した。
すると彼はまた黙ってしまったので、さすがに気になって隣を見てみた。
スコールはなにやら真剣そうな顔をして空を見ていた。
「スコール?」
呼びかけてみると、彼は瞳を閉じて「いや、なんでもない」と静かに首を振った。
だが、すぐに何かを思い出したように顔を上げた。
「どうした?」
「すまない、忘れていた。フリオニールが呼んでいたんだった」
「お、やっと来たな。ちょうど迎えにティーダを送ろうと思っていたんだ」
仲間の集まるテントに戻ると、楽しそうな様子のフリオニールに迎えられた。
『思い出さなければ良かった』とでも言いたいような顔で、スコールはため息をつく。
「何をしているんだ?」
「タンザクってのを書いてるんスよ!」
フリオニールの手元を覗き込もうとした瞬間、ティーダに後ろから飛びつかれ、フリオニールの腕にダイブする。
「・・・痛いティーダ」
「ごめんなー!」
ヘラっと笑いながらティーダは細長い紙とペンを差し出した。
「これをどうすればいいんだ?」
「ここに願い事を書いて、木に吊すと、その願い事が叶うらしいんだ」
フリオニールがテント脇の小さな木を指した。
その先では、ジタンがバッツに肩車をされて細長い紙を吊していた。
他にも何枚か同じようなものが下がっている。
「クラウドも、何か願い事を書いてみてくれ。きっと叶うといいな」
そういってフリオニールとティーダは笑い、吊そうと苦戦しているオニオンナイトの元に向かった。
もう一枚紙を拾い、一人離れて座っているスコールの元へと向かう。
「…俺は書くことなんてない」
「そういわないで、一枚書いてみればいいのに」
ため息まじりに言うスコールに苦笑し、隣に座って自分の願い事を考えてみる。
「さっきの話の続きなんだが」
さっきのように、スコールが静かに口を開いた。
今日はめずらしくよく話すな、と思いつつ顔を上げる。
「バッツの話を聞いて、アンタはどう思った?」
「…え?」
「俺は、2人が可哀想だとは思わなかった。アンタはどう思ったんだ?」
あまりに真面目な顔で聞いてくるものだから、つい「うらやましいと思った」と言った。
「一年に一回だけでも、会えるのは幸せだと思う」
俺の言葉にスコールは一言、「そうか」と言った。
「俺もそう思った」
彼の意外な言葉に思わず目を見開いた。
すると彼は小さく笑い、俺の手からペンを抜き取った。
「俺たちはこの戦いが終われば、きっともう会えなくなる。だから…」
細長い紙にサラサラと字を並べていく。そしてペンを俺の手に戻し、紙の表を俺に見せた。
『今だけは一緒に居られますように』
きれいな細い字で書かれたその言葉と、真剣なスコールの顔を見比べて思わず笑ってしまった。
「なっ…笑うことはないだろう…」
顔を赤くして拗ねた表情を作るスコール。
そんな彼の頭を軽くなでた。
「…どうしたんだ?今日はヤケに話すと思ってたけど、素直だと思うんだが」
「悪かったな、いつもの俺らしくなくて」
「違う、うれしいんだ」
お返しの気持ちを込めて、その肩に頭を預けてみた。
「…お前だって、甘えてる」
「うん」
そのまままた沈黙。
やっぱり俺達じゃ会話が続かないな、と思い、今度は俺から口を開いた。
「東国の2人は今日何をしているんだろうか。幸せなのかな?」
スコールは少し考え込んだあと、「幸せだと思う」と言った。
「きっと俺達と同じようなコトしてると思うから」
後書き
やっぱり短い…ですかね;
七夕だから、ってだけで書いてみましたが、そのせいでどうもおかしなコトに…orz
ここまで読んで下さりありがとうございました。
by雅楽